本日はサイエンス5件。膠芽腫向けGSPT1グルー分解薬、変異KRAS mRNAを切断するDNAオリガミ、ACER2阻害薬、初のPAPP-A阻害薬、クリックで活性化する求電子弾頭を取り上げます。業界ニュースはSummitとAZ・第一三共のダトロウェイ併用提携、JCRとItalfarmacoのライセンス契約の2件です。
2026-10-03 · ⚗️GSPT1 molecular glue degrader (CRBN) · Journal of Medicinal Chemistry (ACS)
- 生存率を指標にした表現型スクリーニングで、テモゾロミドへの耐性が速やかに生じるグリオブラストーマ細胞において、GSPT1が弱点であることが見いだされました。
- イソインドリノン骨格を代謝安定性の観点から最適化し、CRBN依存的なGSPT1のユビキチン化とプロテアソーム分解を誘導する分子糊LG-NE-29が得られました。
- 初期世代の骨格が抱えていた代謝上の弱点を克服し、経口バイオアベイラビリティを備え、グリオブラストーマの異種移植モデルで有効性を示したと報告されています。
💡 ポイントイソインドリノン系CRBNグルーは代謝で脱落しがちなので、その弱点を潰した点にまず注目です。ただ鵜呑みにはできず、GSPT1のDC50とDmax、プロテオーム全体での選択性(IKZF1/3など他のネオ基質)、脳移行を含む経口PKを確認したいところです。GSPT1分解は細胞傷害性が強いため、正常細胞に対する治療域も気になります。
Discovery of LG-NE-29: An Orally Bioavailable GSPT1 Molecular Glue Degrader Effective in Glioblastoma Xenograft Models ↗
2026-09-30 · ⚗️PAPP-A (pappalysin metalloproteinase) active-site inhibitors, peptide-derived phosphinate/phosphonate · bioRxiv
- PAPP-Aは分泌型メタロプロテアーゼで、IGF結合タンパク質を切断して局所のIGFシグナルを制御する。IGF-1R標的に代わるアプローチとなり得る。
- IGFBP-5由来のアンカー配列を基盤に、切断される結合をホスフィン酸またはホスホン酸に置換し、強力で選択的な化合物を得た。
- クライオ電顕で活性部位への結合様式が示され、IGFBP-4およびIGFBP-5の切断を阻害した。
- A549細胞でstanniocalcin-1と同程度にIGF-1シグナルを抑制し、in vivoでもPapp-aa依存的なシグナルを阻害した。
💡 ポイントIGFBP-5由来アンカー配列の切断結合をホスフィン酸やホスホン酸に置き換えるのは典型的な遷移状態模倣で、クライオ電顕の結合ポーズは亜鉛配位の仮説を裏づける材料になる。IGF-1RではなくプロテアーゼのPAPP-Aを狙う発想は、選択性の面で理にかなう。ただしプレプリントなので、近縁メタロプロテアーゼに対するKi値と、ペプチド性リードの安定性・膜透過性を確認してからin vivoの結果を評価したい。
Synthetic inhibitors of pregnancy-associated plasma protein-A regulate IGF-1 signaling in vitro and in vivo ↗
2026-09-29 · ⚗️ACER2 (alkaline ceramidase 2) inhibitor · bioRxiv
安全性・毒性
- ACER2はセラミドをスフィンゴシンと脂肪酸に加水分解する酵素で、これまで薬理学的ツールは存在しなかった。
- ドデカンスルホンアミドにセラミド様のヒドロキシフェニルプロピル基を持つKPB82は、ACER2を強力に阻害し、酸性・中性セラミダーゼへの作用は小さく、ACER1・ACER3は阻害しなかった。
- 速度論は競合阻害を示し、AlphaFold3モデルへのドッキングでZn2+配位ヒスチジン近傍の基質ポケットに結合すると予測された。
- タイトルによれば、腫瘍細胞と初代細胞をドキソルビシンの細胞毒性から保護する。
💡 ポイントACER2にはこれまでツール化合物がなく、競合的でACER1/ACER3を避けるヒットは貴重だ。ドデカンスルホンアミドにヒドロキシフェニルプロピル基という構造はセラミド模倣そのものだが、Zn2+ヒスチジン近傍のドッキング姿勢はAlphaFold3由来の仮説にすぎない。ドキソルビシン保護を信じる前に、IC50値、SAR系列、細胞内でのターゲット結合を確認したい。
KPB82 potently and selectively inhibits ACER2 and protects tumor and primary cells from doxorubicin-induced cytotoxicity ↗
2026-09-12 · ⚗️Bioorthogonally activated covalent warheads (masked Michael acceptors) · Journal of the American Chemical Society (ACS)J. Am. Chem. Soc. 2026, 148 (38), 41661
- Michael受容体をヒドロキシルアミンでマスクし、シクロオクチンとの生体直交反応でCope脱離を起こして、温和な条件で求電子部位を再生します。
- 不飽和カルボニル、シアノ、スルホニル、ホスホネート、マレイミドなど幅広いウォーヘッドに適用でき、活性化速度も調整できます。
- 機能化シクロオクチンを使えば、イメージング用などのペイロードを同時に放出でき、活性化を示すシグナルが得られます。
- 共有結合性阻害剤に応用し、細胞内で制御された活性化が示されました。
💡 ポイントマスクしたウォーヘッドは、アクリルアミド系リードのオフターゲット反応性をついに解決できるのでしょうか。Michael受容体をヒドロキシルアミンで保護し、シクロオクチンのクリックで解除する設計は、トリガーを加えた場所でだけ共有結合性をオンにできる点が巧みです。ただしアブストラクトだけでは判断できないため、速度定数、ヒドロキシルアミン体が標的親和性を保つか、シクロオクチンの大きさや脂溶性が通常のウォーヘッドと比べてどうかを確認したいところです。
A Click-Triggered Bioorthogonal Strategy for Dual Activation of Covalent Warheads and Reporter Payloads ↗